ああ、そうか。
あれは、僕の町だ。



イヤホンから耳に流れ込む言葉は、忘れていたものを思い起こさせる。

あれが自分の町だ! …なんて
思わず指を差して、目と口を大きく開いて
胸を張って言い切れる町なんて、私にはないかもしれない。
生まれ故郷は、そこにいた時からいつも
どこかよそよそしく馴染めなかった。

今思えば、そこから出ることだけを
強く、強く願っていたような気がする。
若さで飛び立てると思っていたし、
若さゆえの傲慢さですべてを馬鹿にして、
鼻であしらうことでなんとかちっぽけなプライドを保っていたんだと思う。

なんてちっぽけな
なんてあさはかな
でもなんてきよらかなんだろう。
自分以外を、自分の信条以外を、
あたまごなしに否定することも
「嘘」だと言い切ってしまうこともできた。
たったひとつしかない潔癖さを信じていたからこそできるんだと思う。

それがあったから、今がある。
いやで嫌いで仕方のなかった故郷があったからこそ、
すべてを否定することから始めたからこそ、
きっと今の自分がいるんだね。知ってる。それは。



私には町なんて要らない。
ホントは。
そしてそんな自分を知ってる。

いつでも外界はただのハコ。どこにいたって自分は自分。大して変わりはない。
むしろ変わりたくたって変われはしないし。

でもいつか…またさらに時間が経ったいつか、
なつかしく思いを馳せる風景がきっとある。
胸の奥の一番敏感な部分が
頼りなく鳴き声をあげる場所がきっとある。