ピクニック・イノセンス

わたしはこの町が懐かしいことを知っていた。
すでに、知っていた。


でも、それは、今となっては、
身を惹き契られるような
堪えがたい苦痛のような
懐かしさではなく、
心地好い毛布にくるまったまま飲む
よく冷えたミネラルウォーターのような
快くすんなりと
身体の芯を通り抜けていく類いのものだった。



時間と記憶の流れが逆行するような心持ちで
たどり着いた川縁は、
あの日とまったく変わらず時を止めて
わたしを待っていてくれたようにすら思えた。


硬く、でも着実に膨らんだ蕾が
春の訪れを祝福していた。
冬日より賑やかさを増した桜の樹は
あの頃より少し高い空で
伸びやかに健やかに腕を拡げる。


一足はやい色鮮やかなピクニックは、
成長の証と不変の同調に
惜しみない讃辞を与えてくれた。


大切な人とかけがえのない時間を共有できる
この日々が永遠でありますように、と
小鳩のはばたきみたいに
ちっちゃくお祈りした。