かもしれない

履歴を繰って的を絞る。
見たいのはこれだけ。
引き寄せたいのはこれだけ。
発信ボタンを押すとコール音が聞こえる。
くちびるから言葉より先に飛び出しそうな心臓を飲み込んで
速まる息をこらえて待つ。


「元気?」と問いかけるのは機嫌をうかがうため。
そんなの明らかにフェイントで。
なにをおしても伝えたいのはひとつだけ。
あいたいそばにいきたいこえがききたいたいおんでとかされたいしんぞうほっさでたおれたい
衝動と欲望に搦めとられて吐き出された感情は
もうすでに純真無垢な恋愛感情じゃない。
溺れた遭難者のエゴとシンパシーしか残らない。
零れ落ちる直前だけがいつも真実で
真実じゃないことも含めてわかっているような
とめどないやさしさの彼方に住む人がほしかった。
手に入れたかった。抱きしめたかった。


結局できたことは
履歴を横目で通り過ぎて
元通りぱちんと折りたたむことだけ。



「五行」という連作が今ものすごくよい。
染み渡る。ここのとこ殊に涙脆いけど決定打かもしれない。
打ちのめされてばたんと倒れて
いつか陽の光でゆっくりと目覚め直したい。