早朝歌舞伎座前情景

カラスは残飯の餌をついばみ低く飛び交う。
年齢も職業も状況も不詳なおじちゃんおばちゃん疲れてたりなかったり。
新聞屋より早く連れ立って銀座で何するかは不明。
無駄な老人の早起きとも見えない。
もしや少し前に流行った銀座の母か?
ここからなら遠くないハズ。
漂うは正でも負でも、陰でも陽でもないグレイな空気。
ぴっかり晴れていない空は既にだれかさんの顔を貼り付けて。
べたべたと塗られた芝居小屋の大仰で薄っぺらな軒や柱。
この街に狂った子どもや酔い潰れた若者の姿はない。
昼間とちがって営業マンも和服のおばさま方もなりをひそめる。
人波でざわめく前の銀座片隅の下町には
快適で不機嫌な時間がおごそかに行くのだ。



眠気と肌寒さと食べたくない空腹を抱えたわたしは、
はやく体温で守られたベッドに潜り込みたい。
ずっと文字ばかり追ってた隈付きの目には眩しすぎる陽光とともに、音もなく平等な朝が訪れる。