「ちょっと早めに来て」といわれて、
やや急ぎ足でバス停に向かって歩ってたら、
一歩しげみに寄った瞬間に
あの芳しさで甘く強く心を鷲掴まれた。
もう、もうそんな、
この季節が来ていたんだ…!
あたまがクラクラするような猛暑と
片付けても片付けても湧き出るような仕事に追われて、
なんだかすっかり忘れてしまっていたよ。
金木犀が咲く。
あの押し付けるような香りに出会う。
危険だ。
今の状況に、この香りで記憶の色づけをするのは、
とても危険な気がする。
この香りに閉じ込められた記憶は、
いつだってしずく一粒と紐付けられているから。
それでもとりあえず
先を急ぐ。
間に合わないといけないからね。